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afterstory 木香薔薇の純真《1》

Penulis: 砂原雑音
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-09 20:36:24

** * * * ** * * * ** * * * **

叶わぬ想いは

いつか形を変えて

それは風化でしょうか

それとも成長でしょうか

** * * * ** * * * ** * * * **

夏も盛り、外を歩けば五月蠅いほどのセミの鳴き声とアスファルトからの照り返しで、あまりの体感気温に朦朧としてしまう。

見上げれば真っ白な雲がもくもくと形を成して、背景の青を一層青く見せる。

彼女が店を訪れたのは、そんな真夏の、昼下がりだった。

「いらっしゃいませ」

カラコロとカウベルの音が鳴り入り口に目を向けると、女性が一人ハンカチで汗を拭いながら立っていた。

年は三十くらいだろうか。

長い黒髪を横流して緩く結んだ、清楚で綺麗な人だ。

彼女はカフェスペースには進まず、そのまま切り花を並べてある商品スペースの方へ目を向けていた。

「何かお探しですか?」

「実は……花を探してるんですが。名前を思い出せなくて」

女性は、片頬を掌で抑えて眉尻を下げて首を傾げた。

思い出そうとしているのか、視線を少し上向けて考えていたけれど、諦めたようにため息をつく。

「実家に咲いてた花なんだけど……なんだったかな」

「咲いてた時期とかわかりますか?」

「それも、はっきり覚えていないんです。多分、春か夏頃?」

申し訳なさそうに肩を竦める彼女に、「大丈夫ですよ」と声をかけて棚に並べてある本を手に取った。

花の画像が季節ごとに分けられていて、後ろに花の名前で索引もついている。

画像も全体像から花のアップまで掲載されていて、調べやすい。

ぱらぱらと最初の方の春のページを捲り、彼女にも見やすいように本を傾けた。

「ほかに何か覚えていることはないですか? 何科だった、とか。花の大きさとか背の高さとか、なんでも結構です」

「えっと……」

「はい?」

「なんか、こう。枝が、わっさー、っと」

そう言いながら、女性が両手を動かしてこんもりした山のようなものを表現する。

「わっさー……ですか」

どうも、女性の記憶はかなり曖昧らしい。

大人らしからぬその表現方法についぽかん、と見つめてしまうと彼女は顔を赤くして俯いてしまった。

「……すみません。言葉でどう表現すればわからなくて」

「あっ! いえいえ。なんとなく、今のイメージからだと……雪柳とか、コデマリとかを思い出すんですけど」

ページを捲って彼女に雪柳とコデマリの写
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    ** * * * ** * * * ** * * * **叶わぬ想いはいつか形を変えてそれは風化でしょうかそれとも成長でしょうか** * * * ** * * * ** * * * **夏も盛り、外を歩けば五月蠅いほどのセミの鳴き声とアスファルトからの照り返しで、あまりの体感気温に朦朧としてしまう。見上げれば真っ白な雲がもくもくと形を成して、背景の青を一層青く見せる。彼女が店を訪れたのは、そんな真夏の、昼下がりだった。「いらっしゃいませ」カラコロとカウベルの音が鳴り入り口に目を向けると、女性が一人ハンカチで汗を拭いながら立っていた。年は三十くらいだろうか。長い黒髪を横流して緩く結んだ、清楚で綺麗な人だ。彼女はカフェスペースには進まず、そのまま切り花を並べてある商品スペースの方へ目を向けていた。「何かお探しですか?」「実は……花を探してるんですが。名前を思い出せなくて」女性は、片頬を掌で抑えて眉尻を下げて首を傾げた。思い出そうとしているのか、視線を少し上向けて考えていたけれど、諦めたようにため息をつく。「実家に咲いてた花なんだけど……なんだったかな」「咲いてた時期とかわかりますか?」「それも、はっきり覚えていないんです。多分、春か夏頃?」申し訳なさそうに肩を竦める彼女に、「大丈夫ですよ」と声をかけて棚に並べてある本を手に取った。花の画像が季節ごとに分けられていて、後ろに花の名前で索引もついている。画像も全体像から花のアップまで掲載されていて、調べやすい。ぱらぱらと最初の方の春のページを捲り、彼女にも見やすいように本を傾けた。「ほかに何か覚えていることはないですか? 何科だった、とか。花の大きさとか背の高さとか、なんでも結構です」「えっと……」「はい?」「なんか、こう。枝が、わっさー、っと」そう言いながら、女性が両手を動かしてこんもりした山のようなものを表現する。「わっさー……ですか」どうも、女性の記憶はかなり曖昧らしい。大人らしからぬその表現方法についぽかん、と見つめてしまうと彼女は顔を赤くして俯いてしまった。「……すみません。言葉でどう表現すればわからなくて」「あっ! いえいえ。なんとなく、今のイメージからだと……雪柳とか、コデマリとかを思い出すんですけど」ページを捲って彼女に雪柳とコデマリの写

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    紗菜ちゃんに先に休憩に行ってもらい、私は一瀬さんに手伝ってもらって出来上がったブーケの撮影をすることにする。「すみません、ちょっと斜めに持っててくださいね」黒のエプロンを背景代わりにして、デジカメで撮影する。少し角度を変えて何枚か撮っていると、少し上の方から一瀬さんの声がした。「先日お電話があった、個展会場の花の活け込みは明日ですか?」「はい。お店も定休日だし、丁度良いと思って」専門学校を先に卒業した先輩の伝手のおかげで、ぽつぽつとフラワーデコレーションの仕事をいただいている。私はあくまでこのお店flowerparcの店員としてお仕事を受けたいと一瀬さんにお願いしたから、依頼は全てお店を通してもらっていた。といっても、まだ二つ目だけれど。依頼主の人とデザインの打ち合わせは済んでいるし、花も手配済みなので後は向こうで実物を仕上げるだけなのだけど、やっぱりまだ緊張する。デザイン画と違うとか言われたらどうしよう。今撮ったブーケの画像をデジカメの液晶画面で確認しながら、緊張を吐き出したくて溜息をついた。「画像、オッケーです。持っててもらってありがとうございます」「……お手伝いしましょうか?」「えっ? いえ、ちゃんと綺麗に撮れましたから……」一瞬、一瀬さんの言う「お手伝い」が今の新しいブーケの撮影のことなのかと思ったが、どうやら明日のことのようだった。「明日、おひとりでは大変でしょう」「いえ、大丈夫です。折角の定休日なんだし、一瀬さんはゆっくり休んでください」デジカメから目線を外して、一瀬さんを見上げた。ほんの少し眉根を寄せた表情に、何か気を悪くさせてしまっただろうかと首を傾げる。「綾さんも、一週間ぶりのお休みでしょう。それに確か先週の休みも打ち合わせじゃありませんでしたか?「大丈夫です! 好きなことですし、打ち合わせなんてほんの二時間程度でしたし」どうやら心配をかけてしまっていたみたいで、私は慌てて首を振って大したことではないと主張した。さすがに明日は、二時間というわけにはいかないだろうけれど。余計に気を遣わせてもいけないし。そう考えて敢えて言わずにいると、一瀬さんが小さく溜息をついた。ような、気がした。「……では、明後日は綾さんはお休みにしてください」「えっ? 大丈夫です、ちゃんと」「休んでください。一日くらい私

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